凍結融解胚移植と新鮮胚移植について

盛岡培養部の中舘です。今回は凍結融解胚移植と新鮮胚移植についてお話します。
不妊治療を行っている方はこれらの単語を耳にしたことがあるかもしれません。
それぞれの移植方法の内容は以下のようになります。

凍結融解胚移植

採卵で得られた受精卵を一旦凍結保存し、移植周期に合わせて子宮内膜やホルモンの状態を薬で整えてから移植する方法です。

凍結融解胚移植の採卵から移植までの流れの図解。<採卵周期>採卵、受精→凍結保存(初期胚or胚盤胞) <移植周期>子宮内膜、ホルモン状態を整える→受精卵を融解し、移植

新鮮胚移植

採卵後、受精卵を凍結せずに、受精後2~3日に移植を行う方法です。

新鮮胚移植の流れの説明の図解。<採卵周期>採卵・受精→移植

この2種類の移植方法にはそれぞれメリット・デメリットがあります。

メリット デメリット
凍結融解胚移植 子宮内膜を整えてから移植するため着床率を高められる。 卵巣過剰刺激症候群 (OHSS) の重症化を回避できる。 凍結融解によって受精卵がダメージを受ける可能性がある。 凍結保存にコストがかかってしまう。
新鮮胚移植 採卵周期内で移植まで行うため、短期間で治療が終了する。 凍結融解のコストがかからず、受精卵への負担も少ない。 子宮内膜が薄いなど、移植に適さない状態の可能性がある。 OHSSが重症化するリスクがある。

2種類の移植方法で臨床成績に違いはあるのでしょうか?

日本産科婦人科学会の登録・調査小委員会から報告されたARTデータブック (2020年版) によると、、凍結融解胚移植で成績が良好な傾向にあります。

ではすべての方が凍結融解胚移植を選択したほうが良いのでしょうか?

2018年に発表された論文 (Kelly S et al.,2018) は新鮮胚移植と凍結融解胚移植の妊娠率や流産率の成績を採卵個数別で比較した論文となっています。論文中では対象となる患者を採卵個数が1-5、6-14、15個以上の3つのグループに分けて成績の比較を行っています。結果は採卵個数が14個以下のグループでは、新鮮胚移植のほうが妊娠率・出産率が高い傾向にあり、流産率は低い傾向にありました。対して採卵個数が15個以上のグループでは凍結融解胚移植のほうが妊娠率・出産率が高い傾向にあり、流産率は新鮮胚移植と差がありませんでした。本文中では採卵個数が15個以上の (卵巣刺激にたいして高反応を示す)患者には、凍結融解胚移植が有用であるが、14個以下のグループでは凍結融解胚移植の有益性は見られなかったと述べています。

移植を行う際に、子宮内膜に十分な厚みがある状態で移植を行うことで妊娠率が高くなります。卵巣刺激方法によっては、お薬の影響で子宮内膜が厚くなりにくい事もあります。これらのことより、卵巣刺激方法やOHSSのレベル、ホルモン値を参考にしながら、それぞれの移植方法のメリット・デメリットを踏まえて最適な移植方法を選択することが重要です。

胚移植にはほかにも妊娠率の向上のため様々な技術があります。盛岡院で実際に行われている技術をご紹介します。

透明帯開口法 (AHA)

レーザーなどを用いて、胚の外側にある透明帯に穴をあける技術です。穴をあけることで中の受精卵が外に出やすいようにすることで、着床率が向上することが期待されています。保険での胚移植でも使用可能となっており、凍結による透明帯硬化など医師が必要と判断した場合に適用されます。

ヒアルロン酸含有培養液

ヒアルロン酸が含まれている培養液であり粘性のある培養液です。ヒアルロン酸が糊のような働きをし、子宮内膜に胚を着床させやすくする効果が期待されています。保険での胚移植でも使用可能となっており、過去の胚移植で妊娠不成功など、医師が必要と認めた場合に適用されます。

SEET法

胚は卵管を通り成長する過程で様々な代謝物質を放出しており、その物質が子宮内膜に働きかけ着床に適した状態にするとされています。SEET法はこの考えから開発された移植方法になります。行う際は受精卵を胚盤胞まで培養し、使用した培養液を一旦凍結保存します。この凍結した培養液を、凍結融解胚移植周期で融解し、子宮内に注入した2~3日後に胚盤胞を移植します。

こちらは先進医療となっており、保険での胚移植でも実施できます。上記の3つの技術は保険診療の中でも行えるものとなっております。ご希望の際は問診時に医師とご相談ください。

胚移植についてご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか?これまでに移植した方や、これから移植をされる方に参考にしていただけたら幸いです。

分からないことがありましたら、ぜひ当院のスタッフまでお声かけください。

京野アートクリニック盛岡

培養部 中舘 雛姫

参考文献

Freezing of all embryos in in vitro fertilization is beneficial in high responders, but not intermediate and low responders: an analysis of 82,935 cycles from the Society for Assisted Reproductive Technology registry

Kelly S. Acharya, Chaitanya R. Acharya, Katherine Bishop, Benjamin Harris, Douglas Raburn, and Suheil J. Muasher, Fertil Steril. 2018 Oct;110(5):880-887.

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