卵子、精子、受精卵、卵巣組織の凍結保存について

生殖補助医療(ART)において、卵子、精子、受精卵の凍結保存は重要な治療技術の一つです。例えば、採卵を行い、複数個の受精卵が得られた時に受精卵を凍結保存し、融解胚移植を行うことで、複数回採卵を行うことなく、第二子以降の妊娠が可能になります。また、凍結融解胚移植では子宮内膜などの着床環境を整えた状態で移植を行うことができるため、新鮮胚移植よりも妊娠率が高いことが知られています。今回は、卵子、精子、受精卵の凍結保存についてお話いたします。

「どのようにして凍結保存をしているのか」
細胞が生存性を損なうことなく長期間保存されるためには、基本的に液体が結晶化(氷晶)することなく、固化した状態の”ガラス化”になる温度(-130℃)で保存される必要があります。そのため、凍結には-196℃である液体窒素(LN2)を用いています。
凍結保存の技術では、いかに細胞内氷晶形成を防ぐかと、耐凍剤(凍結保護剤)による毒性を少なくするかが重要になります。現在のARTでは日本で開発されたガラス化法と呼ばれる手法が受精卵凍結の主流となっており、この方法では融解後の生存率が95%以上とされています(当院では99%です)。

〇卵子や受精卵の凍結
あらかじめ凍結保護剤によって平衡、ガラス化された卵子や受精卵を、クライオトップという専用の容器を用いて、凍結を行います。

〇精子の凍結
精液を調整後に精子専用の凍結保護剤と混和し平衡させ、LN2の蒸気で冷やした後、最終的にLN2へ浸漬して凍結します。

凍結物は液体窒素で満たされた頑丈なタンクの中で保管しています。タンクの周囲には衝撃緩衝材を置き、鍵のかかる棚の中へ収納することで、容器の破損防止対策をとっています。さらに、タンク内の液体窒素残量の計測・補充を定期的に行い、安全に保管継続がされるシステムを導入しています。

凍結保存してある卵子、精子、受精卵の保管期間は凍結日から1年間となり、治療にご使用されない場合は、1年ごとに「凍結保管期限更新」または「廃棄」のどちらかのお手続きが必要です。更新される場合は更新料をお支払して頂く必要があります。凍結期限の1~3か月前には、当院から凍結期限についてのご連絡をさせていただいております(ぜひ、メールアドレスのご登録をお願いします)が、あらかじめご自身でも期限を把握して頂き、早めに更新のお手続きをして頂くようお願い申し上げます。更新のお手続きは期限の3か月前から可能です。ご自身の凍結期限がわからないという方は当院にお問い合わせください。

また、当院では妊孕性(にんようせい:妊娠する能力)温存を目的とした卵子、精子、受精卵や卵巣組織の凍結にも力を入れております。私たちは、卵巣組織の凍結保存や妊孕性温存の相談機関として、日本卵巣組織凍結保存センター「HOPE」を立ち上げました。HOPEでは、卵巣組織の凍結保存施設を集約化し、地域によって卵巣組織凍結を受けることができない、といった問題の改善や、卵巣組織凍結を含めた妊孕性温存についての相談や啓発を推進すべく活動しています。設備や技術はもちろん、がん・生殖医療専門心理士が在籍しているため、サポート体制も整っております。がんと妊娠に関して悩まれましたら、当院へご相談ください。

医学的適応の妊孕性温存については、下記のコラムも併せてご参照ください。
コラム『妊孕性温存を考えられている患者さまへ

仙台培養部 後藤優実

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妊孕性温存を考えられている患者さまへ
妊孕性温存目的の精子凍結の必要性について
卵子または受精卵凍結による妊孕性温存の有効性
AYA研ポスター 宮本若葉(PDF)
AYA研ポスター 越智将航(PDF)

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