血糖と不妊の関係

不妊症や月経不順の原因のひとつに糖尿病があります。なぜ糖尿病の女性は月経不順になりやすいのか、その機序は完全にはわかっていません。規則的な月経には規則的な排卵が必要であり、血糖を下げる働きのあるインスリンはその排卵機構にとってとても重要なホルモンであることが知られています。糖尿病ではインスリン代謝が障害されることが多いため、排卵障害をきたす頻度も高いと考えられています。排卵障害の機序のひとつにインスリン抵抗性が関与していると考えられています。インスリン抵抗性とは、インスリンの作用が効きにくい状態を示し、2型糖尿病や妊娠糖尿病の基本的な病態です。

インスリン抵抗性は肥満や多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とも関連しています。肥満もPCOSも排卵障害を来し不妊の原因となります。そこで臨床的に、PCOSが原因でインスリン抵抗性を示す不妊症の女性に治療としてインスリン抵抗性改善薬を投与すると排卵障害が改善され、妊娠率が有意に上昇し、また流産率も減少することが報告されています。同様に、月経不順を訴える肥満女性に対して、適切な食事療法と運動療法で体重をある程度減少させると、月経が発来したり、規則的になったりすることがあります。

血液検査では、空腹時血糖(グルコース)とインスリンの他に糖化ヘモグロビン(HbA1c)を調べます。正常な場合、食後2時間ほどで血糖値は正常域まで下がりますが、糖尿病の人は食後10時間以上経過してもなかなか正常域まで下がりません。つまり、空腹時血糖が高い人は、糖尿病の可能性が非常に高いというわけです。ところが、空腹時の血糖値は正常でも、食後の血糖値が基準を大きく超える人がいます。このような状態は「隠れ糖尿病」といわれ、やせ型の人や若い人にも存在します。空腹時血糖の検査だけでは見逃されてしまいがちです。HbA1cとは赤血球中のヘモグロビンが糖と結合したもので、この割合を見ることでヘモグロビンが過去にどれだけの糖にさらされていたか、つまり過去(1,2ヵ月)の血糖状態がわかります。ただし、HbA1cにも不安定になる要素があるため、HbA1cの値だけでなく、必ず血糖検査と併用されます。

血糖がコントロールできない状態で妊娠すると、流産や、胎児に先天奇形を合併しやすくなります。高血糖が胎児に及ぼす影響を防ぐために、妊娠前に血糖コントロールをよくすることが重要です。

参考:日本糖尿病・妊娠学会HP (https://dm-net.co.jp/jsdp/)

仙台検査部 嵯峨真奈美

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