子宮鏡検査における慢性子宮内膜炎所見の 統一診断基準について

子宮内膜炎とは、子宮の内側にある子宮内膜が炎症を起こすことで、細菌感染が主な原因です。感染の状況により、急性子宮内膜炎と慢性子宮内膜炎に分けられます。子宮内膜の機能層は月経が来るたびに剥がれて体外に排出され、また新しい子宮内膜が作られるという事が繰り返されるため、通常は炎症が起きることはほとんどありません。急性子宮内膜炎は細菌が侵入し発熱、下痢、下腹痛、帯下の増加、不正性器出血を認めます。入院や抗生剤治療を要す場合や、月経時に子宮内膜が剥がれて一緒に細菌も体外へ排出されて自然治癒する場合があります。
これに対し、慢性子宮内膜炎は子宮内膜の深い基底層にまで細菌が侵入し、炎症が起こり、持続している状態です。ほとんどの人に自覚症状がない、時に不正性器出血や骨盤痛等を認めますが、症状に乏しいことが特徴です。しかし、子宮内に雑菌が繁殖し、細菌感染が続くと炎症症状が慢性的になり、感染の持続により免疫活動が活発化、子宮内膜内の免疫異常や脱落膜化障害を惹起、受精卵を異物として攻撃してしまう可能性も指摘されています。このように慢性子宮内膜炎は、着床障害や反復流産の原因になりうる重要な要因です。
この慢性子宮内膜炎は、採取した組織を用い病理学的に子宮内膜間質内における形質細胞の存在を持って診断しますが、最適な診断方法、診断基準についてはいまだに議論され国際的な統一見解がありません。診断には、従来法の子宮鏡検査、形質細胞の特異的マーカーであるCD138の免疫組織染色検査、原因菌の有無について次世代シークエンサーを用いて検索するEMMA/ALICE検査等があります。

今回、実際にご自身でも見ていただき確認できる、もっとも基本的な子宮鏡検査について、慢性子宮内膜炎の世界的な統一診断基準に関します論文を紹介させていただきます。実際の画像所見もお示しします。

『Unified diagnostic criteria for chronic endometritis at fluid hysteroscopy: proposal and reliability evaluation through an international randomized-controlled observer study』
Ettore Cicinelli, M.D et al
Fertility and Sterility Volume 112, Issue 1, July 2019, Pages 162-173.e2
(子宮鏡検査における慢性子宮内膜炎の統一診断基準:国際的な無作為抽出オブザーバー研究を通しての提案と信頼性評価)

本論文では、関連する複数のレビュー論文から慢性子宮内膜炎を発症している時の子宮鏡検査所見を抽出、さらに医師らによる診断の標準化のため作成された結果に基づいて子宮鏡検査所見による慢性子宮内膜炎の診断基準が以下の5つとして提示されました。

1.『苺状発赤』:赤みがかった内膜の中に白い斑点 (Figure 2 A)
2.『局所的うっ血』:狭い範囲の内膜のうっ血 (Figure 2 B)
3.『出血点』 (Figure 2 C)
4.『マイクロポリープ』:血管を伴わない1mm未満の多発する隆起(Figure 2 D E)
5.『間質浮腫』:厚く青みがかった内膜所見(Figure 2 F)

論文より引用)

参考)子宮鏡検査における正常子宮内所見

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目的と方法)
本論文では、この子宮鏡検査における慢性子宮内膜炎(CE)の診断基準を作成し、無作為に世界各国の200人の医師を選出し、139人が参加しテストに126人が解答し提案された診断基準を評価しました。

CD138検査陽性でCEと診断された50例と、非CE 50例、計100例100枚の子宮鏡画像を用意。
グループA(62人)
このCEの診断基準を添えて、CD138検査陽性でCEと診断された50例と、非CE50例、計100枚の子宮鏡画像を診断結果は明らかにせず提示。

グループB (64人)
このCEの診断基準を知らせず、同じCEと診断された50例と、非CE50例、計100枚の子宮鏡画像を診断結果は明らかにせず提示。
各写真に対しCEか非CEか100例の写真を100問1問1点で解答させ、グループA群、グループB群で正解の得点を比較しました。

結果)グループA群:79.61点 vs グループB群:71.92点

診断基準を提示したA群でCE症例の写真の正解率が高かったが、非CE例の写真の得点は両群間に差はないという結果に至りました。

結論)CEの一連の診断基準を提案。これにより、各医師における子宮鏡所見でのCEの認識や診断能力に対するプラスの影響を認めました。

まとめ)子宮鏡検査のみで慢性子宮内膜炎の診断はできません。ですが、着床不全・不育症の検査・診断・治療において実際に子宮内を観察することは重要であり、医師個人や各機関で偏りがなく正確な統一基準と診断、治療法の確立が非常に必要です。

当院では、反復着床不全・不育症において子宮鏡検査、形質細胞の特異的マーカーであるCD138の免疫組織染色検査、原因菌の有無について次世代シークエンサーを用いて検索するフローラ検査・EMMA/ALICE検査等で総合的に判断し治療をおこなっております。

京野アートクリニック仙台 副院長 戸屋真由美

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