皆さんは、身体の中で受精して育った受精卵の方が、体外受精など体外で育てた受精卵に比べると質が良いだろうというイメージはありますよね。それは私たち生殖医療に携わる者も少なからず身体の中には勝ることはないだろうと昔から思っておりました。しかし、実際にどうなのか比べてみることは不可能だと思っていました。
今回ご紹介する報告は人工授精により体内で受精・発育した受精卵を体内から取り出し、体外受精で育てた受精卵との質(染色体異常と形態)の違いを比べた世界初の斬新な研究です。
First PGT-A using human in vivo blastocysts recovered by uterine lavage: comparison with matched IVF embryo controls Human reproduction,vol.35,NO.1pp.70-80,2020 Santiago Munné et al., |
子宮の中から着床寸前の状態である胚盤胞期の受精卵を回収することは技術面で難しいとされていましたが、この報告ではPrevivo uterine lavage systemという特殊な機器を用いて、人工授精により体内で受精・発育した胚盤胞を子宮から体外に取り出し研究を行いました。
同一患者の体内発育と体外発育で得られた胚盤胞の一部を採取して染色体異数性検査を行った結果、正常率が体内で54%、体外では51%、異常率は体内で20%、体外では17%と、どちらも差がありませんでした。しかし低頻度のモザイク(一部に少しだけ異常が混じっている)率は体内で9%、体外では13%と少し差が出ました。
また、同様に同一患者での体内発育と体外発育で得られた胚盤胞の形態(見た目のグレード)を調べた結果ですが、非良好形態率が体内で31.9%、体外では56.7%と体外発育で見た目に形態の悪い胚盤胞の率が高い結果となりました。
受精卵の染色体異数性異常は妊娠や流産に大きく影響を受けますが、それの正常率と異常率に差が無かったのは我々にとっても安心できる結果となりました。
しかし、低頻度のモザイクが少し多くなっていたのと、形態に差があり、こちらも妊娠や流産に少なからず影響はあると考えられていることから、まだ体外での受精卵の発育は体内環境と同等までには至っていないことが明らかとなりました。
今後もより一層、体内の環境に近づけられるよう培養方法の改善に向けた取り組みを続けたいと思います。
また、当院では日本産科婦人科学会主導のPGT-A(着床前胚染色体異数性検査)の認定施設となっており、妊娠や流産に大きく影響を受ける受精卵の染色体異数性を検査することが出来ます。対象条件がありますので、詳しくは当院ホームページをご参照下さい。
高輪培養部 青野 展也