PGT-Aに関する論文紹介

PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)の有効性は?

「傾向スコアマッチング法の解析から」

「Comparison of pregnancy outcomes following preimplantation genetic testing for aneuploidy using a matched propensity score design」
Human Reproduction, Vol.35, No.10, pp. 2356–2364, 2020
Miriam J. Haviland., et al.

昨年は新型コロナウイルス感染症の影響でほとんどの学会はWEB開催となりました。職場あるいは自宅に居ながら講演、発表を聴けることは非常に効率的であると感じています。コロナ感染症収束後もWEB開催(現地開催とのHybrid開催)がメインとなるでしょう。昨年も多くの講演を聴きましたが、やはり世界的にはPGT-A(着床前胚染色体異数性検査)の研究報告が最も注目を集めていました。正倍数性胚(Euploid胚)のデータは勿論、モザイク胚(Mosaic胚、正倍数性と異数性が同一胚に認められる胚)の移植データも数多く報告されています(勇気付けられるデータですが、これについてはまだ論文報告されていません。後日、論文紹介出来ればと思っています)。

国内では2019年12月に日本産科婦人科学会PGT-A特別臨床研究が開始されました。反復着床不全(2回以上)、反復流産(2回以上)の方が適応です。2020年12月現在、全国で約90施設が実施施設の認定を受けています。当院も2020年4月から臨床研究に参加しています(東北地区では3施設が認定)。世界的に見ても反復着床不全、反復流産に絞った臨床研究はほとんどありません。日本から世界へ良質なエビデンスを発信できることとなるでしょう。

さて今回紹介する論文はPGT-Aの有効性を傾向スコアマッチング法で解析した報告です。以前、PGT-Aの有効性についてSTAR trial(RCT: ランダム化比較試験)について報告しました。RCTではPGT-Aを実施出来る方、出来ない方の不公平が生じること、そして出産までフォローアップするには長期間かかるといった問題点があります(もちろんRCTは研究手法のゴールデン・スタンダードです)。それに対して傾向スコアマッチング法は結果に影響を与える因子(共変量と言います。年齢、不妊要因、治療歴など)を一致させることでそれらの影響を最小限にすることが出来るため、優れた研究手法と言うことが出来ます。また、過去のデータを用いることが出来ることも利点です。それでは論文内容を解説します。

【対象と方法】
米国ボストンIVFで2011年1月〜2017年10月まで体外受精を実施した8227名を対象としました。PGT-Aを実施した1015名と傾向スコアマッチング法で抽出したPGT-A未実施(Non-PGT-A)の1015名について臨床成績を解析しました。主な共変量は年齢、出産歴、BMI、不妊要因です。尚、PGT-Aは良好胚盤胞のみに行い、染色体の解析方法、Euploid率の詳細は不明です。

【結果】
全体の成績:PGT-AではNon-PGT-Aに比べ移植周期数が21%減りました。PGT-AではNon-PGT-Aに比べ生産率(Live birth)が21%上昇(RR: 1.21; 95%CI: 1.08, 1.35) 流産率(Miscarriage)が22%低下しました(RR: 0.78; 95% CI: 0.54, 1.13)。移植胚あたりの生産率はPGT-AでNon-PGT-Aに比べ約2倍高率でした(0.49 vs 0.21)(Table IIIですが、この表は理解しにくいです)。

 

 

 

 

 

 

年齢別の成績:35歳未満、35〜37歳、38歳以上に分けての解析です。35歳未満ではPGT-A、Non-PGT-Aで生産率、流産率に大きな差は有りません。一方、35〜37歳、38歳以上と年齢が上がるほどPGT-AでNon-PGT-Aに比べ生産率上昇、流産率低下の効果が顕著となります。35〜37歳、38歳以上では移植周期数がPGT-Aで大きく減りますが、生産児数は増加します(Table IV)。

 

 

 

 

以上の結果をサマリーするとFigure 3となります。PGT-Aでは胚移植数(周期)が減少します(異数性胚は移植できません)。しかし、35歳以上でのPGT-Aの有用性(生産率増加、流産率低下)は明らかです。

 

 

 

 

 

論文の内容は以上となります。STAR trialと同様で35歳未満にはPGT-Aの効果は限定的との結果です。これはPGT-A時の胚生検による胚へのダメージが影響している可能性が有ります。元来、35歳未満では異数性胚の割合は33%以下です。よって胚へのダメージがPGT-A効果を相殺していると推測されます。また38歳以上、つまり年齢が上がるほどその効果は顕著となってきます。論文では検討されていませんが、38歳以上では妊娠までの治療期間の短縮、治療費の節減も期待されます。やはり、反復着床不全、反復流産の方の検討は成されていませんでした。おそらく、対象者が少なかったためと思われます。反復着床不全、反復流産に絞った日本の臨床研究の結果が待たれます。

仙台院 五十嵐秀樹

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