急性リンパ性白血病患者さんへの妊孕性温存、その後の妊娠・出産についての報告

先日、10月24-26日の期間に福岡で開催された第57回日本癌治療学会に参加し、ポスター発表をいたしました。

当院では、女性の妊孕性温存として、卵子凍結・受精卵凍結・卵巣組織凍結を実施しており、男性の妊孕性温存では精子凍結を実施しております。

当院には様々な疾患の方が妊孕性温存目的で来院されますが、特に血液疾患の方々は、化学療法はもちろんですが、放射線療法(骨盤部への照射)や骨髄移植などの治療による妊孕性への影響が深刻であることが知られています。

今回は、急性リンパ性白血病にて妊孕性温存目的で来院された方の症例報告を致しました。

この方は、2006年に20歳の時に急性リンパ性白血病と診断され、同年より化学療法(寛解療法・地固め療法)を開始しました。その後当院で2度の採卵を行い、成熟卵子を10個凍結保存しました。

2007年に全身放射線照射・骨髄移植を行った後、治癒されたものの卵巣機能は全くない状態となりました。
凍結からおよそ5年後の2011年に凍結卵子を融解し、顕微授精を施行後、受精卵移植によって妊娠され2012年に第1子を出産されました。
その後、卵子凍結から12年後となる2019年に再度融解卵子を使用した胚移植によって、第2子を妊娠・無事に出産されました。現在は第3子に備えた凍結胚がまだ残っています。

一般的な卵子凍結の妊娠率は5-13%と言われていることから考えると、今回のケースは非常に高い妊娠率となり、より若い年齢での卵子凍結は患者さんの妊娠率を高める可能性があることが示唆されます。
現在は世界的にも血液疾患のケースでも卵巣組織凍結の適応ができるようになってきており、妊孕性温存の選択肢はどんどん広がってきています。

その中で、クォリティの高さをしっかりと確保することも必要不可欠です。
生殖補助医療は、医療機関での品質差が小さくありません。
卵巣組織凍結の場合であれば、凍結保存方法がガラス化凍結であるか緩慢凍結法であるかなども含めた情報の開示が患者さんのメリットに直結します。

2019年現在、受精卵・卵子凍結は109施設、卵巣組織凍結は42施設で実施ができるようになっていますが、こうした質を含めた提示をしっかりと各施設が行い、患者さんがそこまでを視野に入れた選択ができるようになることが今後求められると思います。

妊孕性温存は年々広がりを見せています。当院は、不妊治療と同じように、世界標準の治療のレベルを妊孕性温存でも目指し、一人でも多くの患者さんに届けられるように努力して参ります。

HOPE(日本卵巣組織保存センター)
TEL:03-6408-4720
Mail:hope@ivf-kyono.com
理事長 京野廣一

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