顕微授精は、重度の男性不妊がある場合に有効な技術として広まってきました。しかしながら、現在では、男性不妊のない症例でも広く行われるようになり、特に女性年齢が38歳以上では、男性不妊がなくとも顕微授精を行う割合は、20年前の16.0%から69.7%に増加しているとの報告があります。
男性側に不妊原因がない場合の受精率は、通常の体外受精と顕微授精で異なるのでしょうか。
今回は、男性側に原因がなく、かつ女性年齢が38歳以上の症例を対象とした、通常の体外受精と顕微授精の成績を比較検討した論文を紹介致します。
Comparing fertilization rates from intracytoplasmic sperm injection to conventional in vitro fertilization among women of advanced age with non−male factor infertility: a meta-analysis
Saswati Sunderam, M.A., Ph.D.(a), Sheree L. Boulet, Dr.P.H., M.P.H.(b), Jennifer F. Kawwass, M.D.(a,c), Dmitry M. Kissin, M.D., M.P.H.(a,b)
a National Center for Chronic Disease Prevention and Health Promotion, Centers for Disease Control and Prevention, Atlanta, Georgia; b Emory Department of Gynecology and Obstetrics, Emory University School of Medicine, Atlanta, Georgia; and c Emory Reproductive Center, Division of Reproductive Endocrinology, Emory Department of Gynecology and Obstetrics, Atlanta, Georgia
この論文は、7つの論文についてのメタ解析(過去に独立して行われた複数の臨床研究のデータを収集・統合し、統計的方法を用いて解析した系統的総説)によるレビューです。
この論文の特徴的なところは、男性不妊症ではない、女性年齢が38歳以上の症例を対象としているところです。女性年齢が38歳以上で、体外受精を行っている割合は、日本でも世界でも増えており、採卵される卵子の個数は少ないことが多くなります。治療数は増加しているものの、そのような症例を対象とした研究はまだ少ないのが現状です。
顕微授精4369個、通常の体外受精4427個、合計8796個の卵子について、通常の体外受精と顕微授精の受精率を比較しています。
結論から言うと、通常の体外受精と顕微授精の受精率を比較したところ、有意差は認められませんでした(RR 0.99, 95% CI 0.93−1.06; P=.8)。
以下が結果の詳細になります。
・平均年齢を報告する5つの研究の中で、通常の体外受精群(41.3歳)と顕微授精群(41.4歳)の間に有意差は認められませんでした。
・通常の体外受精と顕微授精との間の、症例の特徴(平均年齢、不妊原因、および不妊期間)に有意差は認められませんでした。
・7つの研究のうち6つは、卵巣刺激に対する反応が悪い症例で、採卵された成熟卵子が3個以下の症例を対象としていました。卵子数が多い研究は1つだけでした(通常の体外受精:7.2±5.5個、顕微授精:6.5±5.7個)。
この論文の結果からは、女性年齢が38歳以上で男性不妊症がない場合、顕微授精を行っても、受精率が改善するとは限らない、ということになります。
1つの研究では、通常の体外受精と顕微授精で受精率が変わらない要因として、顕微授精は、卵子に対して物理的な侵襲を伴う技術であり、顕微授精後に変性する卵子があることを挙げています。
もちろん、通常の体外受精でも、多精子受精(2つ以上の精子が卵子内に侵入)や受精障害(精液所見が正常でも受精しない、もしくは受精率が低い)などがあり、これらを回避するためには顕微授精が必要です。
一概に、通常の体外受精と顕微授精、どちらが良いとは言えませんが、当院では、これまでの治療結果を見ながら、どちらの媒精方法が適切か医師から皆様にご提案出来るように、そして、どちらを選択しても最良の結果に繋がるよう、培養士として技術の研鑽を行い、培養環境の維持と改善に努めて参りたいと思います。
盛岡培養部 中條 友紀子