採卵までの卵巣刺激を行う際に早発LHサージが発生すると、採卵前に排卵したり卵の質が低下するため、採卵をキャンセルせざるを得ないことがあります。早発LHサージの発生を抑えるための卵巣刺激法としてアンタゴニスト法が知られていますが、アンタゴニスト法でも早発LHサージが発生する場合があることから、より有効な方法が求められていました。そのような中で、近年、黄体ホルモンを使用する卵巣刺激法、PPOS(Progestin-primed Ovarian Stimulation)法の有用性が報告されています。
今回、黄体ホルモンの一種であるルトラールという内服薬を使用し、PPOS法とアンタゴニスト法との比較検討を行いました。
【方法】
2018年8月~2019年12月までに、ルトラールを使用したPPOS法を行った113周期のP群と、GnRHアンタゴニスト法を行った118周期のA群で比較しました。
(採卵時年齢が40歳以上の方、高度乏精子症、無精子症の症例は除外しました。)
両群ともに採卵周期の月経3日目よりhMG、FSH製剤の連日投与を開始。P群は投与開始と同時に、ルトラール 1日12mg/6mg/4mg/2mgを連日、採卵決定日まで内服してもらいました。A群は、経腟超音波で測定した主席卵胞径が14mmを超えたところから、GnRH アンタゴニスト製剤 を24時間ごとに採卵決定日まで投与しました。
【結果】
年齢、BMI、不妊期間、AMHに関して、有意な差は見られませんでした。(表1)
また、採卵数、卵子成熟率、受精率、胚盤胞凍結率などについて有意差を認めなかったことから、PPOS法がアンタゴニスト法と同等の成績を示していると言えます。(表2)
採卵時のLHはP群(12mg, 6mg, 4mg)においてA群よりも有意に抑制され、用量が多いほど抑制がより強いことがわかりました。P群(2mg)においては、A群との有意差は見られませんでした。(図1)
【まとめ】
ルトラールを使用したPPOS法は早発LHサージを抑制し、その治療成績はアンタゴニスト法と同等でした。
ルトラールは経口投与が可能であり、注射製剤に対するストレス軽減という観点からも、有用な卵巣刺激法と考えられます。
今後は、採卵決定時のLHの過剰な抑制を避けるためにルトラール投与量の減量を試みることで、より良い治療環境を整えることが出来ると考えられます。
またその一方で、アンタゴニストは以前は注射製剤しかありませんでしたが、最近になって経口剤も使用できるようになりました。
双方の経口剤についての比較も今後検討してみる価値があると思います。
高輪医師部 吉永光希