PGT-A(着床前胚異数性テスト)の有効性は?「胚の形態学的評価との比較」

Preimplantation genetic testing for aneuploidy versus morphology as selection criteria for single frozen-thawed embryo transfer in good-prognosis: a multicenter randomized clinical trial.
Fertility and Sterility 2019 Sep 21 [Epub ahead of print], STAR Study Group.

今年もアメリカ生殖医学会(@フィラデルフィア 2019年10月12日から17日開催)に参加してきました。多くの発表がある中、やはり一番の話題はPGT-A(着床前胚異数性テスト)についてでした。海外ではPGT-A(着床前胚異数性テスト)は広く行われ、学会ではその有効性、そしてモザイク胚(正常と一部染色体構造異常の混在)の取り扱いについて(胚移植すべきか否か)盛んに議論されていました。日本では1)習慣性流産の患者、2)反復ART不成功(3回以上着床不全)の患者を対象としたパイロット研究が終了し、良好な成績が出たと報告されたばかりですので、PGT-Aに関しては周回遅れである感は否めません。

今回紹介する論文はPGT-Aの有効性を従来の形態学的評価と比較することにより検討した論文です。これまでは後ろ向き研究(結果をさかのぼって解析する手法)の報告でしたが、今回の報告はランダム化比較試験と言われる研究方法(無作為に2つの群に分けること)で非常に信憑性の高い研究報告と言えます。

【対象と方法】
米国、英国、カナダ、オーストラリアの34クリニックが参加。25〜40歳(平均年齢33.7歳±3.6歳)で体外受精を行い、少なくとも生検(PGT-Aのための栄養外胚葉採取)が可能な2個以上の胚盤胞が得たれた患者661名を対象とした。患者は次世代シークエンサーによるPGT-Aを行った330名(PGT-A群)と形態学的評価だけを行った331名(コントロール群)の2つの群に無作為に分けた。尚、研究参加者は予後良好な患者(タイトルにあるgood-prognosis patients)となっています。PGT-A群は生検後にガラス化凍結を行い、Euploid胚(正倍数体胚、染色体正常)を1個移植します。コントロール群では最も形態良好な胚をガラス化凍結し1個胚移植をし、それ以外は生検しPGT-Aを実施しています(今回の研究では移植せず)。両群とも1個胚移植ですので、この研究はSingle-Embryo-Transfer of Euploid (STAR) trialと呼ばれています。 効果判定は妊娠20週での妊娠継続率(OPR: Ongoing pregnancy rate)としています(以降の流産のリスクは非常に低いが生産率ではない)。

【結果】
① OPRはPGT-A群50.0%(137/274)、コントロール群45.7%(143/313)で同等であった(統計学的有意差を認めない)。
② ITT(intention to treat:治療企画解析)ではPGT-A群41.8%(138/330)、コントロール群43.5%(144/331)で同等であった(統計学的有意差を認めない)。
ITT(治療企画解析)とは治療が実施不能や続行不能になった患者も元来の群(ここではPGT-A群とコントロール群)に含めて解析する手法。つまり、PGT-A群ではEuploid胚が無かった患者は移植が出来ないので移植患者数が大きく減少します。その結果、ITTでは移植出来ない患者数を含めた元の患者数で解析するのでOPRが低下しやすくなります。
PGT-Aは有効では無いのか?
続きがあります。
③ Post hoc解析(事後解析)では移植当たりのOPRは35歳未満ではPGT-A群49.3%(75/152)、コントロール群53.0%(89/168)と同等の成績であったが、35〜40歳ではPGT-A群50.8%(68/122)、コントロール群37.2%(54/145)とPGT-A群で有意に成績が良かった。しかし、これもITTでは有意差が無くなった(同等の成績であった)。
④ 流産率は両群とも年齢に依らず同等で10%前後であった。ではPGT-Aの結果ではEuploid胚は何%あったのでしょうか?
⑤ Euploid胚はPGT-A群で43.1%、コントロール群で40.9%でした。異倍数体(Aneuploid)胚はそれぞれ54.2%、56.1%で、この中にはモザイク胚がそれぞれ16.8%、16.2%含まれていました。
⑥ PGT-A群でのEuploid胚は35歳未満で48%、35歳〜40歳未満で35.5%、年齢上昇と共に減少しました。

【結論】
STAR trialの結論としては「予後良好患者(除外基準として卵巣予備能低下、流産歴あり、2回以上のIVF-ETで不成功、高度男性因子など)ではPGT-Aは形態学的評価と比較して妊娠継続率改善に寄与しなかった。しかし、35〜40歳未満の患者では改善を認める」、となります。
著者らはSTAR Studyを通して、以下の点に言及または指摘しています。
① PGT-AでのEuploid胚の割合は解析を実施する施設、または実際に治療に当たるIVFクリニックにより隔たりがある。
② 16.8%に及ぶモザイク胚についてはSTAR trialから除外しているが、移植すれば生産となっていた可能性がある。
③ 35歳未満でPGT-Aの効果が認められなかったのは、生検による胚への負担(ダメージなど)がPGT-Aの利益を上回っていた可能性が考えられる。

論文の内容は以上となりますが、日本の現状はどうでしょうか?先に行われたパイロット研究の結果をもとに、日本国内でもさらに規模の大きなPGT-Aパイロット研究が実施される予定です。日本では海外に比較して生殖補助医療を受ける方の年齢が高いことから、PGT-Aによる胚選択のメリットはより大きいと推測されます。すべての方に行うのではなく、35歳以上、反復ART不成功、習慣流産など、適応を明確にすることでその効果は最大化されると考えられます。PGT-AのEuploid胚の割合は解析施設、IVFクリニックで大きな隔たりがあること、またEuploid胚移植後の妊娠成績はIVFクリニックで隔たりがあることが報告されています。私たちは来たるべきPGT-A時代に向けてしっかり準備していきたいと思います。

仙台 五十嵐 秀樹

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