現在、凍結技術の発展により、生殖補助医療において凍結融解胚移植が主流となり、多くの児が誕生しております。
液体窒素を用いて-196度で凍結することで、理論上半永久的に凍結保存ができるとされています。
また、若年がん患者の妊孕性温存目的での卵巣組織・卵子・精子凍結も重要性が注目されており、積極的な取り組みがなされつつあります。
では、実際にどのくらいの期間凍結保存が可能であるかについて、今回調べてみました。
出産まで至った最長凍結期間(ヒト)
凍結物 | 報告者 | 報告年 | 凍結期間 |
卵子 | Urquiza MF et al.1) | 2014年 | 14.6年 |
胚 | Yuan Yuan et al. 2) | 2019年 | 16.8年 |
卵巣組織 | Silber SJ et al. 3) | 2018年 | 16年 |
精子 | Feldschuh J et al. 4) | 2005年 | 28年 |
1)卵子の凍結最長報告は14.6年
1999年24歳女性は夫男性因子のため15個のMII卵子を採卵、9個に顕微授精し5個受精、D3に3個移植も妊娠に至らなかった。この時の6個はMII卵子の状態で緩慢凍結法にて凍結保存した。その後、2013年38歳時にクリニックを受診、14年6ヶ月の凍結保存後の6個のMII卵子を融解、2個生存、顕微受精を施行。1個の分割胚をD3 8cellで胚移植、妊娠38週で女児を出産に至った。
2)胚は、2018年の報道にて米国テネシー州で25年間保存後の出産報告があるが※)、文献的には16.8年
自施設で施行したIVF/ICSI症例患者20名で胚の凍結保存期間が12年以上の症例について調査した。
胚凍結保存期間は、12.0-17.1年で、うち、4症例が出産、全てIVF由来で、13.8年、16.0年、16.0年、16.8年でした。最長17.1年は着床に至らず。
3)卵巣組織では、最長凍結保存期間は16年間、凍結後20年後に出産例もあり
1997年より2017年の20年間に、6歳から35歳(平均24歳)の108人の女性が、緩慢凍結法もしくはガラス化法で、卵巣組織の凍結保存行った。そのうち82人(85%)が片側卵巣を摘出し保存。66人ががん患者であった。他、社会的適応やターナー症候群などでも行われた。がん患者ではホジキンリンパ腫20人、乳がん13人、白血病7人などであった。これまでに、13人の患者が治療を希望し、卵巣組織を残存卵巣に移植した。13人の患者全員が、移植後5ヶ月で定期的な月経周期で卵巣機能の回復を示した。 FSHが正常に低下したため、AMHは非常に高いレベルまで上昇しました。 4ヵ月後、AMHは再び非常に低いレベルまで低下しました。それにもかかわらず、移植片は5年以上機能し続けた。 13人中10人(77%)が少なくとも1回は自然妊娠し、13人の健康な赤ん坊が生まれた。最長保存期間は、ホジキンリンパ腫の女性で20歳時に凍結、16年後36歳時に移植し挙児を得ている。また、急性リンパ性白血病の女性は、24歳時に凍結保存し、15年後の39歳時に移植、凍結保存から20年後の2017年に男児を出産となった。
4)精子は28年間が最長凍結保存期間
1972年に28歳の男性が、がん治療の前に精子を凍結保存し、21年後と28 年後および2001年に人工授精で妊娠・出産に成功。
引用文献
1)Successful live birth from oocytes after more than 14 years of cryopreservation
María Fernanda Urquiza et al. J Assist Reprod Genet 2014
Nov;31(11):1553-5.
2) What was the fate of human embryos following long-term cryopreservation
(≥12 years) and frozen embryotransfer?
Yuan Yuan,et al. Hum Reprod. 2019 Jan 1;34(1):52-55.
※) https://www.cnn.co.jp/usa/35112231.html
3)Cryopreservation and transplantation of ovarian tissue: results from one
center in the USA.
Silber SJ et al, J Assist Reprod Genet. 2018 Dec;35(12):2205-2213.
4) Successful sperm storage for 28 years
Joseph Feldschuh et al. Fertil Steril. 2005 Oct;84(4):1017.
培養や凍結保存技術により生殖補助医療も発展しました。
また、がん治療の革新的な進歩によって、がんを克服するがんサバイバーも著しく増加しております。
若年がんでは、その傍らで、妊孕性が廃絶されてしまうなどの副作用があることが報告されています。
抗がん剤の投与開始と共に生理が止まるということはよくあることで、なかにはそのまま早期閉経してしまうことがあります。
当院では、HOPE(日本卵巣組織凍結保存センター: http://hope-kyono.com)とも協力し妊孕性温存治療にも積極的に取り組んでおります。
京野アートクリニック仙台 戸屋真由美
注意)以下の会告のように、技術的に保存可能でも倫理的問題は遵守する必要があります。 (2014年 8 月 産科婦人科学会 会 告 )
『胚の凍結保存期間は,被実施者が夫婦として 継続している期間であってかつ卵子を採取した女性の生殖年齢を超えないこととする. 』