卵子や精子、受精卵にも抗酸化作用が必要?

高輪院の培養部の森さんからのコラムです。

最近テレビなどで美容や健康にビタミンCやポリフェノール、リコピンなどが良いと取り上げられていますよね。

これらは抗酸化作用によりアンチエイジングに効果があると言われておりますが、

実は受精卵を培養するときにも抗酸化作用のある物質を培養液に添加することが試みられています。

今回ご紹介させていただくのは、抗酸化物質を添加した培養液のマウス体外受精胚への効果を検討した論文です。

Antioxidants improve IVF outcome and subsequent embryo development in the mouse

Human reproduction,vol.32,NO.12pp.2404-2413,2017

T.Truong et al.,


この研究では抗酸化物質であるアセチル-L-カルニチン、N-アセチル-Lシステインおよびα-リポ酸に着目しています。

 

アセチル-L-カルニチン ・活性酸素種を減少し、酸化によるダメージから保護・精巣上体液に存在し、精子のエネルギー源となる

・赤身肉に多く含まれる

N-アセチル-Lシステイン ・抗酸化物質であるグルタチオンを合成する・グルタチオン:活性酸素種を減少させる

受精を助ける(精子頭部脱凝集)

・食品からは摂取できない

α-リポ酸 ・活性酸素種を減少・一度働いて効力を失った抗酸化物質を再生

・牛や豚の肝臓、心臓、腎臓など(1㎏に約1㎎)

これら抗酸化物質を組み合わせて体外受精を行いその後の発育を比較しました。

その結果、抗酸化物質を添加すると、

胚盤胞という着床寸前の段階の受精卵の将来胎児になる細胞(内細胞塊)と将来胎盤になる細胞(栄養外胚葉)の細胞数が増加し発育も速くなり良好な結果となりました。

また、卵子と精子の回収時から抗酸化物質を添加した場合でも、栄養外胚葉、内細胞塊ともに細胞数が増え良好な結果となりました。

この結果から卵子や精子は特に酸化ダメージを受けやすくなっていますが、

抗酸化物質によって酸化ストレスを減らし、発育の遅れが軽減されたと考えられます。

培養液の開発は何十年も前から行われていますが、近年では成分を測定する機器の精度が上がり、

細胞の発育に必要な新たな成分が解明されるなど試行錯誤を繰り返すことで、安定した培養成績を得ることができるようになっています。

現在ではヒト受精卵の培養液にも添加され始めており、日々研究・開発が行われています。

 

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