非侵襲的PGT-Aについて

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着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)とは、体外受精によって得られた胚(受精卵)の染色体数を移植前に調べる検査です。正常な染色体数の胚(euploid)を選んで移植することができるため、妊娠率の向上と流産のリスク減少が期待できます。当院もPGT-Aの特別臨床研究に参加しており、選定基準を満たした方は申し込んでいただくことができます。
(参加の詳細についてはこちらをご覧ください)
PGT-Aは「胚生検」といって胚盤胞の栄養外胚葉の一部を採取して検査を行うのが一般的です。現状ではこの技術が生まれてくる子に影響を及ぼすという報告はなされていませんが、胚にダメージを与えるという懸念があります。

 

 

 

 

そのため、胚を傷つけないPGT-Aとして非侵襲的PGT-Aの研究が注目されています。
※「非侵襲的」とは、医学用語で生体を傷つけないことを意味します。
今回は非侵襲的PGT-Aとはどのような技術なのか、また胚の一部を採取するPGT-Aと比較した際の検出精度や問題点について、過去の研究の内容をまとめた論文をご紹介いたします。

Non-invasive preimplantation genetic testing (niPGT): the next revolution in reproductive genetics?
Megan Leaver, Dagan Wells, Human Reproduction Update, Volume 26, Issue 1, January-February 2020, Pages 16–42

非侵襲的PGT-Aには胞胚腔(胚盤胞の空洞)を満たす液を解析する方法と、胚を培養した培養液を解析する方法の2種類があります。これらには胚由来のDNAが存在すると考えられるため、胚の細胞を採取しなくても染色体数の検査ができるとされています。

胞胚腔液を用いた検査

 

 

 

 

 

 

紹介論文より改変
【結果】
胞胚腔液と胚の一部を採取した異数性検査の結果は62%~100%一致しました。また、染色体の数・形を示す核型の検査結果は38%~90%一致し、異数性・核型共に発表された論文によって大きな差がありました。検査結果が90%以上一致した発表もありましたが、安定した結果は得られませんでした。
また、培養液と胚の一部を採取した異数性の検査結果も46%~94%一致と、発表された論文によって大きな差がありました。更に、培養液中には卵丘細胞(卵子を取り巻く細胞)由来のDNAなど、胚由来でないDNAも混入し、誤った検査結果が出る場合があることが分かりました。

胞胚腔液と培養液を解析した非侵襲的PGT-Aに共通した問題点として、
・採取できるDNA量が胚の細胞を採取するより少なく、検査できない場合がある
・異常な染色体数の胚(aneuploid)、モザイク胚(異常な細胞と正常な細胞が混在した胚)と判定される確率が高く、胚が発達する過程で外に排出された異常な細胞を採取した可能性があるという懸念点がありました。

【まとめ】

メリット デメリット
胚の一部を採取するPGT-A ・実際に胚の細胞の一部を採取して解析するため、検査の安定性・信頼性が高い ・侵襲性がある
・検査に高度な技術が必要
非侵襲的PGT-A ・侵襲性が低い
・胚生検より高度な技術が必要ない
・採取できるDNA量が少ない
・検査結果が安定せず信頼性が低い
・胚盤胞の穿刺が必要(胞胚腔液)
・胚以外のDNA混入の可能性(培養液)

非侵襲的PGT-Aによる異数性の検査は現在のところ、検査の安定性や信頼性が胚の一部を採取するPGT-Aに及ばず、臨床現場での利用は開始されていません。今後の研究が進み、より安全で精度が高い非侵襲的PGT-Aの技術の確立が期待されます。

当クリニックでは高度な技術を持つ培養士が、胚に無理な負荷をかけないよう胚の一部を採取し、PGT-Aを実施しております。日々進化する科学技術を利用し、皆様により良い医療をご提供できるように今後も努めて参ります。

高輪培養部 小泉藍

 

 

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