医学的適応と非医学的適応の両者の妊孕性温存のための卵子凍結

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今回は、乳がんや白血病等がんと診断され、化学療法・放射線療法・手術といったがん治療で卵巣機能の低下を
きたす可能性がある医学適応の卵子凍結と、悪性疾患ではないが卵巣の手術を要したりするため卵巣機能の低下を
きたす子宮内膜症症例や自らのキャリアのためや独身女性で将来的に妊娠を望むための社会的(選択的)卵子凍結
保存について、それぞれの累積出生率についての報告を紹介させていただきます。

      『医学的適応と非医学的適応の両者の妊孕性温存のための卵子凍結』

Oocyte vitrification for fertility preservation for both medical and nonmedical reasons Ana Cobo
et at al Fertil Steril 2021 May;115(5):1091-1101. doi: 10.1016/j.fertnstert.2021.02.006.

卵子のガラス化法による凍結技術の確立は、妊孕性温存(FP: fertility preservation)の分野での応用に大きく
貢献するようになってきました。この技術の恩恵は、がんなど腫瘍性病変による医原性や様々な理由で妊娠を遅らせ
たいという理由で加齢により卵巣機能を失う危険性のある女性で得られるようになり、現在、この選択肢が提供され
るようになりつつあります。

妊孕性温存のための精子や卵子の凍結保存は、様々な理由で生殖機能が脅かされる個人のためにあります。この論文
では、様々な文献より、①社会的(選択的)理由の症例、②手術や病気の進行で卵巣機能が脅かされる子宮内膜症症例、
③がんと診断された症例の3群での卵子凍結保存の有用性を調査しています。凍結卵子数と累積妊娠率を凍結保存時の
年齢(35歳以下、36歳以上)、子宮内膜症では、チョコレート嚢胞の摘出術前後で検討しています。

以下の表は、3つの異なる集団における35歳以下(A)および35歳以上(B)の累積出生率を示します。結果は、社会的
卵子凍結、子宮内膜症グループの患者及び、がん妊孕性温存で、累積出生率の結果は、年齢を一致させたグループで
同じ数の卵子を使用した場合に類似していたため、最終的に影響を与える最も強力な要因の1つとして年齢が明らかに
なりました。

 

 

 

 

 

 

 

さらに次の表は、子宮内膜症症例を手術既往で分け、35歳以下(A)および35歳以上(B)の患者における社会的卵子凍結、
子宮内膜症手術歴ありおよび手術歴なし、及びがん妊孕性温存の各症例において使用された凍結卵子の数に応じた累積出生
率を示しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

この研究の最も注目すべき点は、子宮内膜症症例で手術群の年齢の影響に関係しています。累積出生率は、年齢を一致
させた手術患者(42.8%)と比較して、若い(35歳以下)非手術患者(72.5%)で有意に高かったです。35歳を超える
患者では、卵巣手術既往は、累積出生率に影響を及ぼさず、このグループでの調整された管理を示唆していました。
従って、子宮内膜症と診断され、若い年齢でチョコレート嚢胞摘出術の既往がある女性は、手術前に卵子の回収による
妊孕性温存を考慮する必要があるという結果でした。また、卵巣のチョコレート嚢胞の摘出で片側と両側では累積出生
率に有意差はありませんでした。

結論:本論文は、がん妊孕性温存の卵子凍結、社会的卵子凍結、子宮内膜症での妊孕性温存卵子凍結における、凍結卵子
数と累積出生率を検討したものです。特に卵子回収時の患者の年齢は、研究されたすべての集団の転帰に強く影響して
います。妥当な成功率(累積出生率が40%〜70%)を達成するには、35歳以下の患者で10〜15個の卵子を利用できる
ことが望ましい結果でした。

しかし、36歳以上、あるいは子宮内膜症症例やがん妊孕性温存症例では、より多くの卵子を必要とします。子宮内膜症の
患者は、若い年齢(35歳以下)で妊孕性温存の卵子凍結を決定するようにカウンセリングを受ける必要があります。
また、卵母子凍結する前に子宮内膜症を外科的に切除すると、若い患者の転帰に大きく影響します。したがって、手術前
に卵子凍結を勧める必要があります。

最後に、FPを選択するさまざまな適応の女性に対し、卵子の凍結保存は将来の母性を確保するための保険ではなく、
生物学的な子供を持つ可能性を高める手段であることを説明することが必須であると考えられます。

京野アートクリニック仙台
副院長 戸屋 真由美

 

 

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